毎年3月に発表される『成年後見関係事件の概況』です。
成年後見に関する最新の統計情報となっています。
今年も令和5年についてのデータが最高裁判所より公開されました。
この『成年後見関係事件の概況』は、成年後見制度の利用に関する統計情報を最高裁が発表しているものです。
成年後見制度が開始された平成12年から毎年情報が公開されています。
具体的には、
などの情報が公開されており、この資料を読み込むと最新の成年後見制度の動向が見えてきます。
当サイトではブログ開設時から毎年数字データだけではなく、専門職後見人として実務経験方法な司法書士がわかりやすく解説をまとめています。
まずは、成年後見制度の申立件数について見ていきましょう。
令和5年の申立総数は対前年比約3.1の%増加となっています。
令和5年は昨年の件数減少から一転し増加傾向にあります。
昨年の件数減少は一時的なものであったようです。
また令和5年の類型別だと後見は前年比1.3%増、保佐は9.2%増、補助は4.4%増となっており、保佐類型がぐんと伸びています。
重度の認知症ではないケースでも保佐人をたてて後見制度を利用するケースが増えているようです。
とはいえ類型としては後見、保佐、補助のうち後見類型が約69%と大きく占めていることは例年通りです。
そして任意後見監督人選任申立は対前年比0.9%減と前年を下回っています。
昨年の12.1%増よりも数字が落ちましたのでこちらも増加は一時的なものであったようです。
任意後見制度は元気なうちに自分の後見人を決めておける制度です。
自己決定支援として有益な制度ではありますが、判断能力が衰えたにもかかわらず、任意後見受任予定者が任意後見監督人選任申立てをしてくれないという制度の悪い点も耳にしますのでそれを表している数字かもしれません。
成年後見制度の利用には時間がかかると思っている方も多いのではないでしょうか。
成年後見制度が始まった当初(平成12年)は審理期間が長かったためその印象が残っていると思われます。当時は審理期間4ヶ月以上が約60%となっていました。
現在は審理期間がかなり短縮化しています。
2ヶ月以内の終局が71.8%(前年は71.9%)、4ヶ月以内の終局が93.7%(前年も93.7%)という結果です。
ほぼ前年データと同様です。
コロナも収束し安定的に短期間で手続きが終わるようになっているようです。
成年後見人が必要になって申立てをしているのですから審理期間が早いのは基本的には良いことです。
本人にとって適任の成年後見人探しが必要な案件や家族内で紛争がある場合などは後見人が決まるまでに時間がかかるケースとなります。
後見人をつけるきっかけの調査です。
預貯金の管理解約は例年1位を占めています。
平成30年データの預貯金の管理解約は42%という数字ですがこの割合は年々減ってきており身上保護や介護保険の契約、不動産の処分という他の動機が増えています。
後見人に求められるものが財産管理だけではなく本人の生活や介護保険契約、施設入所契約等の身上的なもののウェイトが大きくなってきていることを表していると言えます。
令和5年は大きく変化がないですが、令和6年4月1日から相続登記が義務化されるため来年は相続手続きが若干増えるのではないかと予想されます。
遺産分割や相続登記については本人に判断能力がないと、手続きができず後見人を選任することが求められることがあるからです。
後見の申立てができるのは本人及び本人の4親等内の親族、任意後見人等、そして市区町村長です。
4年連続申立人1位が市区町村長となりました。(全体の23.6%)
市区町村長の申立ては前年比では4.1%の増加となっており増加率も高いことがわかります。
少子化や、核家族化で親戚付き合いが希薄になっている時代なので今後も市区町村長申立ての件数は増えると予想されます。
本人申立てが増えていることも注目です。
これは令和5年が保佐の申立てが増えていることと関係していると思います。
本人にある程度判断能力が残っている場合は本人が申立人となって保佐や補助(人によっては後見でもできる)の申立てができるのでその方法を採っているということです。
ここ10年ほどの統計では、成年後見人には親族ではなく弁護士や司法書士など専門職後見人が選ばれることが多い傾向です。(ちなみに専門職の中でも司法書士がシェア1位、弁護士が2位、社会福祉士が3位です)
今回も親族後見人と専門職後見人の割合については今まで通りの結果です。
親族後見人が20%以下というかなり低い数字に見えます。親族が後見人に選ばれにくいのかなと思いがちですがさらにデータを読み込むと決してそうではないことがわかります。
令和2年から申立時の候補者データが公開されるようになりましたのでこちらのグラフをご覧ください。
親族を後見人にしてほしいという申立て自体が申立て件数全体の22.0%です。
親族が後見人の候補者になっていることが少ないことがわかります。
むしろ親族を候補者にしている場合の申立ては高い確率で親族がそのまま選ばれているとも読める数字です。
そもそもの申立ての際に親族の候補者が少ない、という今回のデータからの次のようなことが考えられます。
現在の最高裁は親族で適正な人がいる場合は親族後見人を選任するという方針を打ち出していますので今後の数字が気になります。
令和5年は後見制度の新規利用者が増えたので一昨年の件数減少は一時的であった。
市区町村長申立ての割合が増え続けているということで役所も手続きを推進している。
今後も高齢化が進んでいくためこれからも後見制度が必要な高齢者は増えていくものです。
制度の改正の中で後見人の一時利用という案も出ているので後見制度に選択肢が増えることとなり、さらなる増加も期待されます。
親族も後見人になれないわけではありませんので正しい理解が必要です。
後見制度は本人のための制度であり判断能力が衰えたり、自分で財産管理が必要になったときは有益な制度です。
自分も自分の親も使うことがあるかもしれませんので、本人が望む支援ができる制度であってほしいと思います。