毎年春に発表される『成年後見関係事件の概況』です。
今年も令和4年についてのデータが最高裁判所より公開されました。
この『成年後見関係事件の概況』は、成年後見制度の利用に関する統計情報を最高裁が公開しているものです。
成年後見制度が開始された平成12年から毎年情報が公開されています。
具体的には、
などの情報が公開されており、この資料を読み込むと最新の成年後見制度の動向が見えてきます。
当サイトではブログ開設時から毎年数字データだけではなく、後見人経験方法な司法書士がわかりやすく解説をまとめています。
まずは、成年後見制度の申立件数について見ていきましょう。
令和4年の申立総数は対前年比約0.2の%減少となっています。
令和4年は2年ぶりに総数が減少となりました。
減少とはいえ申立件数としては90件の減少なので例年とそこまで変わらない総数です。
また類型別だと後見は前年比0.2%減、保佐は0.3%増、補助は5.1%減となっており、補助類型が特に減っているので認知症状の軽い人などは制度の利用を控えたといったことが考えられるのかもしれません。
類型としては後見、保佐、補助のうち後見類型が約70%と大きく占めていることは例年通りです。
そして任意後見監督人選任申立は対前年比12.1%増と前年を上回っています。
任意後見制度は元気なうちに自分の後見人を決めておける制度です。
終活の準備として有益な制度であることが少しずつ浸透してきているのかもしれません。
成年後見制度の利用には時間がかかると思われる人がいます。
成年後見制度が始まった当初(平成12年)は審理期間が長かったためその印象が残っている懸念があります。当時は審理期間4ヶ月以上が約60%となっていました。
現在は審理期間がかなり短縮化しています。
2ヶ月以内の終局が71.9%(前年は75.4%)、4ヶ月以内の終局が93.7%(前年は94.5%)という結果です。
前年データより少し期間が伸びています。
コロナにより病院や施設の面会制限があり調査官面談の省略などもあった前年の令和3年に比べると、少し面会制限が緩やかになった令和4年は調査官面談などがきちんと行われていたのかもしれません。
成年後見人が必要になって申立てをしているのですから審理期間が早いのは基本的には良いことです。
本人にとって適任の成年後見人探しが必要な案件などは時間がかかるケースとなります。
後見人をつけるきっかけの調査です。
預貯金の管理解約は例年1位を占めています。
平成30年データの預貯金の管理解約は42%という数字ですがこの割合は年々減ってきており身上保護や介護保険の契約、不動産の処分という他の動機が増えています。
後見人に求められるものが財産管理だけではなく本人の生活や介護保険契約、施設入所契約等の身上的なもののウェイトが大きくなってきていることを表していると言えます。
また令和4年は相続手続も8.5%と前年の8.3より微増しています。
令和6年4月1日から相続登記が義務化されるため司法書士としては相続についての相談が増えてきていると実感しているので後見分野でもその部分が現れた数字なのではないかと思っています。
後見の申立てができるのは本人及び本人の4親等内の親族、任意後見人等、そして市区町村長です。
3年連続申立人1位が市区町村長となっています。(全体の23.3%)
市区町村長の申立ては前年比では0.5%の増加となっています。
少子化や核家族化が進んでいる時代なので今後も一定数はこのまま市区町村長申立て件数があるものと思われます。
ここ10年ほどの統計では、成年後見人には親族ではなく弁護士や司法書士など専門職後見人が選ばれることが多い傾向です。(ちなみに専門職の中でも司法書士がシェア1位、弁護士が2位、社会福祉士が3位です)
今回も親族後見人と専門職後見人の割合については今まで通りの結果です。
親族後見人が20%以下というかなり低い数字に見えます。親族が後見人に選ばれにくいのかなと思いがちですがさらにデータを読み込むと決してそうではないことがわかります。
令和2年から申立時の候補者データが公開されるようになりましたのでこちらのグラフをご覧ください。
親族を後見人にしてほしいという申立て自体が申立て件数全体の23.1%です。
親族が後見人の候補者になっていることが少ないことがわかります。
むしろ親族を候補者にしている場合の申立ては高い確率で親族がそのまま選ばれているとも読める数字です。
そもそもの申立ての際に親族の候補者が少ない、という今回のデータからの次のようなことが考えられます。
現在の最高裁は親族で適正な人がいる場合は親族後見人を選任するという方針を打ち出していますので今後の数字が気になります。
令和4年は後見制度の新規利用者が微減したが来年以降はどういう数字になってくるのか要注目です。
今後も高齢化が進んでいくためこれからも後見制度が必要な高齢者は増えていくはずです。
制度が使いにくい、わかりにくいということで数字が伸び悩んでいるのであれば国としても制度の正しい周知や使いやすい制度への改正という努力が必要です。
制度の改正の中で後見人の一時利用という案も出ているので後見制度に選択肢が増えることは良いことでしょう。
親族も後見人になれないわけではありませんので正しい理解が必要です。
後見制度は使いにくいと、お金がかかるといった負のイメージが先行してしまっているところがあるので、その辺りは名実共に成年後見制度は使いやすく本人の権利をきちんと守ることができる制度であるというイメージ改革が期待されます。