昨年(令和3年)の『成年後見関係事件の概況』が最高裁判所より公開されました。
この『成年後見関係事件の概況』は、成年後見制度の利用に関する統計情報を最高裁が公開しているものです。
成年後見制度が開始された平成12年から毎年情報が公開されています。
具体的には、
などの情報が公開されており、この資料を読み込むと最新の成年後見制度の動向が見えてきます。
まずは、成年後見制度の申立件数について見ていきましょう。
令和3年の申立総数は対前年比約6.9%の増加となっています。
令和3年は引き続き新型コロナウィルスや緊急事態宣言の影響を受け人の往来や経済活動は低迷していましたが後見事件の申立て件数は増加しています。
後見制度は政府も普及を進めており、広報活動や地域包括支援センターの充実等が件数増加に一定程度寄与しているものと思われます。
また類型別だと後見は前年比6.4%増、保佐は8.6%増、補助は7.5%増となっており、保佐や補助といった判断能力がある程度保たれている人の制度利用が増えています。
とはいえ後見類型が約70%と大きく占めています。
任意後見監督人選任申立は対前年比6.2%増ですが、件数としては低迷しています。
任意後見制度は元気なうちに自分の後見人を決めておける制度です。
終活の準備として有益な制度ですがまだまだ一般的に普及というには程遠い数字です。
政府は自己決定権の尊重として任意後見制度をさらに推して行こうとしていますので今後の件数は要チェックですね。
成年後見制度の利用には時間がかかると思われる人がいるかもしれません。
これは制度が始まった当初(平成12年)は審理期間が長かったためその印象が残っている懸念があります。当時は審理期間4ヶ月以上というのがほとんどでした。
現在は審理期間がかなり短縮化しています。
2ヶ月以内の終局が75.4%(前年は70.1%)、4ヶ月以内の終局が94.5%(前年は92.4%)という結果です。
令和2年は緊急事態宣言の影響を受け若干長くなっていた審理期間ですが令和3年は令和1年と同等期間となっています。
さらに短縮していくかどうか、令和4年に期待したいです。
後見人をつけるきっかけの調査です。
預貯金の管理解約は例年1位を占めています。
平成30年データの預貯金の管理解約は32%という数字ですがこの割合は年々減ってきており身上保護や不動産の処分という他の動機が増えています。
後見人に求められるものが財産管理だけではなく本人の生活や介護保険等身上的なもののウェイトが大きくなってきていることを表していると言えます。
後見の申立てができるのは本人及び本人の4親等内の親族、任意後見人等、そして市区町村長です。
昨年の申立人はそれまでの1位であった本人の子を抜いて市区町村長がトップでした。(全体の23.9%)
今回も2年連続申立人1位が市区町村長となっています。(全体の23.3%)
市区町村長の申立ては前年比でも4.1%の増加となっていますので地域包括支援センターを置くなど自治体が成年後見制度の利用に積極的になっていると言えるでしょう。
ここ数年、親族ではなく弁護士や司法書士など専門職後見人が選ばれることが多い傾向です。
親族後見人が20%以下という衝撃的な数字に見えますがさらにデータを読み込むと決してそうではないことがわかります。
令和2年から申立時の候補者データが公開されるようになりましたのでこちらのグラフをご覧ください。
親族を後見人にしてほしいという申立て自体が申立て件数全体の23.9%です。
親族が後見人の候補者になっていることが少ないことがわかります。
むしろ親族を候補者にしている場合の申立ては高い確率で親族がそのまま選ばれているとも読める数字です。
そもそもの申立ての際に親族の候補者が少ない、という今回のデータからの次のようなことが考えられます。
現在の最高裁は親族で適正な人がいる場合は親族後見人を選任するという方針を打ち出していますので今後の数字が気になります。
後見制度の利用は年々増加傾向であり、令和2年12月末時点における利用者数は23万人を超えています。(後見・保佐・補助・任意後見含む)
今後も高齢化が進んでいくためこれからも後見制度の利用者は増えていくものと考えられます。
手続きも迅速化をしており裁判所も本人や家族が使いやすい制度を目指しています。
また裁判所は本人の自己決定権の尊重に重きを置いているため、今後も保佐、補助類型の増加、任意後見制度の推進は進んでいく傾向と思われます。
親族後見人についても候補者として立てれば高い確率で選任をされています。
超高齢化社会に向けてより一層使いやすく、でも本人の権利をしっかりと守る、という両面が期待されます。