終活の一つの選択肢である“任意後見制度”。
任意後見制度は自分が元気なうちに将来の任意後見人やその人への報酬を決めておくことができ、とても有益な制度であるといえます。
しかし任意後見人には“取消権”がありません。
この取消権というのは一体何なのか、取消権がないとどうなるのか、取消権が必要になったらどうしたらいいのか詳しく解説していきたいと思います。
法定後見制度の場合取消権は成年後見人に当然に与えられています。
成年被後見人本人が一人で日常の買い物以外の法律行為を行った場合、成年後見人は後からその行為を取り消すことができます。
例えば本人が自宅を売りますと一人で買主さんと売買契約をしてしまった場合、後からその事実を知った成年後見人は買主さんに「今回の売買契約は本人が一人で行ったことなので取消します。」と言って売買契約をなかったことにできます。
同じケースで任意後見人の場合、たとえ契約が本人にとって不利なものであっても任意後見人が後からなかったことにはできません。
他にも以下表のようなケースで取消権がなく困る場面が想定されます。
内容 | 具体的ケース |
---|---|
1,元本の領収または利用 |
本人が詐欺的な投資話を信じ預貯金を取り崩し、元本をリスクのある投資に利用してしまった |
2,借金や保証をすること |
本人が高価な布団などを分割払いやリース契約で購入してしまった |
3,不動産その他重要な財産を得喪すること |
本人が原野商法などの詐欺的行為で無価値の土地を高額で購入してしまった |
4,新築、改築、増築、または大修繕をすること |
本人がリフォーム詐欺などで不要な大修繕を行ってしまった |
どれも本人の判断能力が衰えている場合に起こりうるケースです。
では実際任意後見人が本人の行った契約を取消ししたいと思ったらどうしたら良いのでしょうか。
このようなケースで任意後見人に紛争処理についての代理権がある場合は「本人が一人で行ったので」との理由ではなく、「あれは詐欺だった」といった他の理由で取消しを主張していくことになります。
後から取り消しができる理由として詐欺や脅迫があった契約だったと主張する、消費者契約法違反を主張するといったことが考えられます。
またクーリング・オフが適用となる契約(訪問販売やモニター商法等)であればそれを基に取り消しを行うこともできます。
しかし詐欺だったことを証明することも容易ではありませんし、クーリング・オフできる期間(契約内容によって8日間や20日間)も限られています。
そのため、本人が頻繁に不要な契約を結んでしまうような機会がある場合は法定後見制度への移行を考えることとなります。
法定後見の申立ては任意後見人もすることができるのでご本人のためには任意後見のままがいいのか、それとも法定後見への移行がいいのかご本人と話し合うことが必要でしょう。
任意後見人は本人の意思の尊重という基本理念があるために取消権がないとされています。
しかし取消権がないと本人にとって不利益な場面も想定されます。
このようなデメリットもあることを踏まえつつ制度の活用ができたら良いですね。
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