成年後見制度の利用開始を裁判所に申し立てる際には、本人がどの程度の判断能力を有しているのかによって、「後見」、「保佐」、「補助」の3段階の類型から、どの類型で申し立てるかを決定する必要があります。
類型は、医師によって作成された診断書の内容に基づいて裁判所が決定するため、類型の決定には「診断書」が大きく影響してくることになります。
この診断書について、フォーマットが改訂されるというニュースが発信されていました。
この記事によると、診断書を改訂することによって「保佐」や「補助」の割合を増やすことを狙っているようです。
現在の診断書では、本人の出来ることを著しく制限する「後見」と判定されるケースが大半。本人の意思がより尊重される「保佐」や「補助」類型を改訂で増やし、利用を促す。
上記の効果が狙ったようにでるのであれば、本人の意思をより尊重することが可能になるため、成年後見制度にとって非常にプラスになる改訂だと評価できます。そのため、今回は診断書の改訂内容の詳細を紐解いていきます。
前述の通り、成年後見制度を利用する際には、「後見」、「保佐」、「補助」のうちいずれか1つの類型を決定して申立てを行う必要があります。
「後見」、「保佐」、「補助」の違いをかんたんに説明すると、“本人がどの程度の判断能力を有しているのか”という点です。「後見」が最も本人の判断能力がないと判断された状態で、「保佐」、「補助」の順に、より本人の判断能力があると判断された状態になります。
※類型に関する詳細は、“わかりやすい!成年後見人、保佐人、補助人の違い”をご参照ください。
3段階の類型が定義されているものの、成年後見制度の利用申し立てを行った結果、大半のケースにおいて「後見」と判断されるという状況になっています。
「後見」は本人の意思が尊重されづらいため抵抗感も強く、さらに「後見」の割合が多いという状況が、成年後見制度の利用が伸び悩んでいる一因になっていると考えられています。
そのため、本人の意思がより反映される保佐」、「補助」の割合を増やすことが今回の改定の目的になっているようです。
では、具体的にどのような内容が改訂されるのでしょうか。
報道の内容だけでは改訂の詳細な内容が不明確だったため、調査を行なったところ、平成30年7月2日に開催された第1回成年後見制度利用促進専門家会議の配布資料(↓)に、改訂のポイントがまとめられていました。
資料10-成年後見制度における診断書の見直しについて.pdf
上記資料によると、大きく以下3点が改訂されているようです。(ただし、会議の時点の資料ですので、その後変更が加えられている可能性があります。あくまで参考情報としてください。)
1. 判断能力についての意見欄の見直し
上記のPDFに、変更前後の書式が記載されています。「援助」を「支援を受ける」という言い回しに変更しているようですが、それぞれの文章の指し示す意味はほとんど変わっていません。つまり、設問に対する選択肢の表示順序を入れ替えただけという改訂です。
表示順序を入れ替えるだけという子供だましみたいな改訂ですが、個人的には結構効果があるのではないかと考えています。上に記載された選択肢のほうが、より重要な選択肢に見えてしまうものですからね。
心理学的にも「初頭効果」という言葉で定義されているようですので、意外とこの対応は効果があるのではと期待しています。
2. 判定の根拠を明確化するための見直し
これは、自由記入方式による回答だった設問を選択方式による回答に変更する、という回答方法の見直しです。
この変更によって、類型の最終的な判定結果に対する根拠を定量的に示すことが可能になります。
根拠が定量的に示されることによって、このような状況だったら統計的にはこの判定結果が妥当である、というような判定基準を統一化することが可能になると想定されます。
3. 福祉関係者の作成する「本人情報シート」の書式を新たに作成
今回の改訂の一番のポイントだと考えています。本人に関する情報を、福祉関係者(介護・福祉の担当者)に記入してもらう書類が追加されるようです。医師が診断書を作成する際にこの書類を参考にすることで、本人の性格な状態を考慮して診断書を作成することが可能になります。
この改訂により、本人の状態を最も把握している人の意見を参考にすることが可能となるため、非常によい取組だと評価できます。
ただ、この「本人情報シート」について、「福祉関係者の作成する」という説明文が補足されているということは、親族では作成できないんでしょうかね?
本人の状態を一番把握できているのはやはり親族だと思いますので、親族による作成が最も効果的だと考えるのですが。。成年後見制度においては親族は悪事を働くものである、という考え方がまだまだ残っているように感じられてしまいます。
あと気になるのは、診断書を作成する側である医師、福祉関係者に対する啓蒙活動が必要になるという点ですね。
ただ、啓蒙活動については、以下のように対策が行われるようですので、その点は安心して良さそうです。
今後,関係府省とも連携し,医師・福祉関係者向けに「ガイドライン」を作成し,十分な周知を図った上で,平成31年中に運用を開始する予定です。
今回の改訂によって、本当に「保佐」、「補助」の割合が増加していくのかは、今後の運用に大きく依存すると思います。しかし、成年後見制度が本人の意思をより反映しようという方向に向かっているという点は、非常に評価できます。
なお、既に成年後見制度を利用している人は、今回の診断書改訂の恩恵を受けることはできるのでしょうか。
例えば、成年後見制度を「保佐」で開始したものの、本人の認知症が進んだために「後見」に切り替えるという手続きが可能です。また、本人の認知症の状況が改善されれば、「後見」から「保佐」に切り替えることも可能です。
(ただし、類型の切替という申立てはできず、現在の類型の取消し→別類型での申立てという手順を踏む必要があります。)
そのため、現在「後見」として成年後見制度を利用している人が改訂後の診断書を使って再度診断を受けてみたら、「保佐」と診断されたので類型を「保佐」に切り替える、ということも十分に考えられる状況だと思います。
ただし、類型の切替には裁判所も慎重に判断をすると考えられますので、改訂後の実際の動きがどうなっていくのかを見守っていく必要がありそうです。
既存の利用者への適用は、今回の診断書改訂に限った話ではありません。今後も様々な改善が出てくると思いますので、最高裁には既存の利用者に対する適用も是非積極的に検討をしていただきたいです。