後見監督人とは?その問題点は?

後見監督人

成年後見制度を利用するために開始申立てについて調べていると、「後見監督人」という言葉を目にすることがあると思います。

今回は、この「後見監督人」について説明します。

後見監督人とは「後見人の業務を監視する人」

後見監督人とは、名前の通り後見人を監督する人を指します。
具体的には、後見人が定められた業務を遅滞なく行っているか、不正は行っていないか?などを監視する役割を担います。

後見監督人は、親族後見人が選任されるときに、家庭裁判所の職権で選任されることがあります。
基本的には、事前に裁判所から相談はなく、「後見監督人を選任しました」という通達があるのみです。

後見制度において、後見人を監督するのは基本的には家庭裁判所ですが、家庭裁判所の監督をサポートする機関として、必要に応じて家庭裁判所が後見監督人を設置(選任)できることが定められているためです。

なお、後見人の業務に不審な点があるなどの理由で、本人(被後見人)や親族からの依頼によっても後見監督人を選任することが可能です。

後見監督人が必要とされる状況は?

東京家庭裁判所の後見Q&Aにおいて、候補者以外が後見人に選任されたり、後見監督人が選任されたりする可能性が高い状況が記載されています。

候補者以外の後見人や後見監督人が選任される状況

  • 親族間に意見の対立がある場合
  • 流動資産の額や種類が多い場合
  • 不動産の売買や生命保険金の受領など、申立ての動機となった課題が重大な法律行為である場合
  • 遺産分割協議など後見人等と本人との間で利益相反する行為について後見監督人等に本人の代理をしてもらう必要がある場合
  • 後見人等候補者と本人との間に高額な貸借や立替金があり、その清算について本人の利益を特に保護する必要がある場合
  • 従前,本人との関係が疎遠であった場合
  • 賃料収入など,年によっては大きな変動が予想される財産を保有するため、定期的な収入状況を確認する必要がある場合
  • 後見人等候補者と本人との生活費等が十分に分離されていない場合
  • 申立時に提出された財産目録や収支状況報告書の記載が十分でないなどから、今後の後見人等としての適正な事務遂行が難しいと思われる場合
  • 後見人等候補者が後見事務に自信がなかったり、相談できる者を希望したりした場合
  • 後見人等候補者が自己もしくは自己の親族のために本人の財産を利用(担保提供を含む。)し、または利用する予定がある場合
  • 後見人等候補者が,本人の財産の運用(投資)を目的として申し立てている場合
  • 後見人等候補者が健康上の問題や多忙などで適正な後見等の事務を行えない、または行うことが難しい場合
  • 本人について、訴訟・調停・債務整理等の法的手続を予定している場合
  • 本人の財産状況が不明確であり、専門職による調査を要する場合

数が多くてわかりづらいですが、
「本人の財産が多い、親族間で揉め事があるなど、後見人が不正を犯しやすい状況の場合は、後見人が不正をしないように後見監督人がつけられる」
と理解すれば間違いないかと思います。

後見監督人の職務

後見監督人の職務は、以下の通り民法に定義されています。

【民法851条】

  • 後見人の事務を監督すること。
  • 後見人が欠けた場合に、遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること。
  • 急迫の事情がある場合に、必要な処分をすること。
  • 後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること。

上記の各職務について、簡単に説明します。

1. 後見人の事務の監督

後見人は、後見業務として財産の調査及びその目録の作成を行う必要があります。このとき、後見監督人が選任されている場合は、その立会いが必要となり、もし立会いがない場合はその内容は無効となります。(民法853条2項

なお後見監督人が行う「立会い」とは、後見人が作成した目録をチェックしたり、後見人が作成した目録の原案を基に後見監督人が清書したりという方法が一般的のようです。

また、後見監督人は、いつでも後見人に対して後見事務の報告や財産目録の提出を求めることができます。加えて、後見事務や本人の財産の状況を調査することも可能です。(民法863条1項

上記の調査を行った結果、後見人に不正な行為などが発覚すれば、後見監督人は後見人の解任を家庭裁判所に請求することができます。(民法846条

つまり、後見人の事務内容を調査・確認することで後見人の業務内容を監督し、不適切と判断されればその解任を請求するという、家庭裁判所の代わりを務めることができるような権限を持っているということです。

2. 後見人が欠けた場合に新しい後見人の選任を請求する

後見人が死亡するなどして不在になった場合、後見監督人は新しい後見人の選任を家庭裁判所に請求します。

3. 急迫の事情がある場合に必要な処分を行う

急迫の事情とは、本人に回復しがたい損害が生じるおそれがあるにもかかわらず、後見人が病気などの理由で一時的に業務を行えないような状況を指します。

このような状況が発生した場合、後見人に代わって必要な対応を行うことができます。

4. 後見人の代理

後見人と本人の利益が相反するような行為については、後見人が本人の代理をすることができません。そのため、後見監督人が代わりに本人の代理を務める必要があります。

例えば、本人の不動産を後見人が購入するような場合、相場よりも安い値段で購入するような行為が可能となるため、不動産を売却する行為は後見人では本人の代理ができません。このような本人と後見人が取引する場合には、後見監督人が代理をすることになります。

なお、上記のような利益相反が発生するような取引を行うためには、特別代理人(一時的な後見人)の選任を申立てることも可能ですが、後見監督人が既に選任されていれば、特別代理人の選任は不要となります。
(特別代理人については、また別の機会にご説明します。)

後見監督人の報酬

後見人に専門家が選任された場合(専門職後見人)には報酬が必要となりますが、後見監督人も同様に、報酬を支払う必要があります。

報酬額は、各家庭裁判所や事案によって異なりますが、横浜家庭裁判所では目安として以下の金額が開示されてます。

後見監督人の報酬額の目安(横浜家庭裁判所)

管理財産額
(預貯金及び有価証券等の流動資産の合計額)
基本報酬額
5000万円以下

月額1万円〜2万円

5,000万円超え

月額2万5000円〜3万円

専門職後見人の報酬は以下となっていますので、専門職後見人の半額が相場だと考えておけばよいでしょう。

専門職後見人の報酬額の目安(横浜家庭裁判所)

管理財産額
(預貯金及び有価証券等の流動資産の合計額)
基本報酬額
1000万円以下

月額2万円

1000万円以上5000万円以下

月額3万円〜4万円

5,000万円超え

月額5万円〜6万円

なお、後見監督人への報酬は、申立人や後見人が支払う必要はなく、家庭裁判所が決めた金額を本人の財産から支払います。

後見監督人の問題点

後見人の不正を抑止することが可能な後見監督人ですが、報酬に見合った仕事をしていない、後見人の業務を問題なく努めているにも関わらず家庭裁判所に強制的に後見監督人をつけられた、などの問題が発生しているようです。

監督されること自体に問題があるわけではなく、報酬が必要になるということが、この問題の要因と考えられます。

本来、後見制度において後見人を監督するのは家庭裁判所の役目です。

しかし、近年の成年後見制度の利用者数増加に伴い、家庭裁判所の業務負荷が高まっています。その対策として、家庭裁判所のサポートのために後見監督人をつける、ということ自体は大きく間違った対策ではないと考えます。

ただし、家庭裁判所の都合で後見監督人を利用を進めているのであれば、その経済的な負担を成年後見制度の利用者側に求めるという運用は、正直なところ大きな違和感をおぼえてしまいます。

上記問題は、成年後見制度の利用促進の障害となっていると想像されます。そのため、その対策として、裁判所が職権で後見監督人を付ける場合には家庭裁判所にてその報酬を支払う、というような運用に変更できないものでしょうか?

上記対策が実行されれば、監督後見人が利用しやすくなり、結果として成年後見制度の利用促進につながっていくと考えられます。

また、そもそも後見監督人を利用しないで済むように
 ・親族後見人のモラルや知識を向上する教育方法を構築する
 ・より効果的で効率的な家庭裁判所での監視方法を構築する
という対策も、成年後見制度の利用促進にとって有効な施策だと考えます。

いずれも簡単な対策ではありませんが、成年後見制度の利用者数は今後も間違いなく増加していくため、家庭裁判所にはぜひ上記のような対策も検討していただければと思います。

【関連リンク】成年後見制度とは?利用方法やお金の話、デメリットなどを専門家が解説

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