本ブログでも過去に取り上げていた成年後見制度の利用に伴う欠格条項の全廃について、ついに法案が決定されたようです。
現在の法律では、成年後見制度を利用すると、成年後見人や保佐人をつけられた本人は医師、税理士等の資格や会社役員、公務員などの地位を失うなど、180以上ものに資格に対して制限を受けることになっています。
しかし、成年被後見人(及び被保佐人)の人権尊重の観点や、成年被後見人であることを理由とした不当な差別の解消が可能になること、成年後見制度の利用促進の障害になっていることから、これらの資格制限(欠格条項)の見直しが進められていました。
今回の報道は、その欠格条項を廃止する法案が決定したという内容になります。
欠格条項は、180以上もの法律に明記されていましたが、とくに例外はなく全ての法律からその記載が削除されるようです。
制度利用者の権利を一律に制限してきた規定が人権侵害との指摘があったためで、地方公務員法など関係する188本の法律からなくす。面接や試験で資格保有にふさわしい能力があるか個別に判断することとする。
また、法改正の施行日は各法律によって異なると報じられていますので、自分が関係する資格の法改正の施行日がいつになるのかは、関係省庁への確認が必要になります。
施行日は資格などによって異なり、法案が成立すれば公布の日に施行されるものもある。
上記の法案決定と同日に、文部科学省から以下の評価書が開示されていました。
(閣議決定の時間との前後関係は不明ですが。)
タイトルからだとちょっとわかりづらいですが、「成年被後見人等に係る欠格条項の見直し」を行うことに対する評価がまとめられたものです。
内容を見たところ、資格によって「成年被後見人等の欠格事由を単純に削除するもの」と「成年被後見人等の欠格事由を削除し個別審査規定を設置するもの」に分けられるようです。
「個別審査規定」とは、「心身の故障がある者の適格性に対する個別的、実質的な審査によって各資格・業務等の特性に応じて必要となる能力の有無を判断する規定」と記載されていますので、冒頭の記事にて報じられていた「面接や試験で資格保有にふさわしい能力があるか個別に判断すること」と同じ趣旨ですね。
つまり、資格によっては資格保有にふさわしいかどうかの審査が新たに設けられるということのようですが、パッと見たところ、個別審査が必要になるもの、ならないものを分ける明確な基準は想像できませんでした。
(個別審査については各法律に委ねるなどの理由でしょうか。)
なお、個別審査を行うこと自体は問題ありませんが、個別審査を実施する契機は何か?ということが、非常に重要なポイントになってくると思います。
もし個別審査を実施する契機が「成年後見制度を利用したこと」であれば、成年被後見人であることを理由とした不当な差別の解消という点では、その問題が解消されないままになってしまうからです。
さすがに条文に「成年後見制度を利用したこと」という文言が残ることはないと思いますが、個別審査の実際の運用がどのように行われていくのかという点は、各省庁において注視していただきたいと思います。
なお、文部科学省の評価の結論は、以下となっています。
本改正案の結果として、遵守費用及び行政費用が一定程度発生する。しかし、当該欠格条項の見直しにより、成年被後見人(及び被保佐人)を一律に排除することがなくなり、法の目的である成年被後見人(及び被保佐人)の人権の尊重、成年被後見人(又は被保佐人)であることを理由とした不当な差別の解消及び成年後見制度の利用促進が可能となることに鑑みれば、本対策案により得られる効果(人権問題の解消)が非常に大きいのに対し、必要な費用は社会的に受忍されるべき程度のものであると考えられる。
個別審査を行うことによるコスト増はあるものの、人権問題の解消の効果がはるかに大きいため、そのコスト増は許容されるもの、という今後の法案可決を後押しするような評価となっています。
我々も、欠格条項の廃止は、本来あるべき成年後見制度の理念(本人保護の理念を源とし,本人の意思や自己決定権の尊重すること)に近づくことになるため非常に有意義な結果である、と評価しています。
まだ国会での法案可決が残ってはいますが、欠格条項があることで成年後見制度の利用をためらっていたご本人やご親族の方は、ぜひこの機会に成年後見制度の利用を再検討していただければと思います。