成年後見制度の利用による失職に対する提訴のニュースです。
記事を簡単にまとめると、
という内容のようです。
まず、記事の中にある聞きなれない「地位確認」という言葉ですが、今回の裁判のようにその立場にいる権利があることを認めてもらうことです。地位確認が認められると、退職は無効となり、男性は元の職場に戻れることとなります。
つまり今回の提訴は、「後見人制度を利用したことによる退職は憲法違反だから、退職を無効にして元々の地位を回復させて欲しい!」という趣旨になります。
「警備業法」を確認すると、確かに以下の条文が明記されています。
次の各号のいずれかに該当する者は、警備業を営んではならない。
ー 成年被後見人若しくは被保佐人又は破産者で復権を得ないもの警備業法 〜第3条より抜粋〜
上記の警備業法の条文を受けて警備会社は男性に退職するように促したようですが、法的な根拠があるにも関わらず、なぜ会社は訴えられたのでしょうか?
成年後見制度を利用すると、「成年後見人や保佐人をつけられた本人は医師、税理士等の資格や会社役員、公務員などの地位を失う」ということは、本ブログでも過去にふれています。
過去のブログでは幾つかの職業・資格を例示するにとどまっており、警備員については特段明記していませんでしたが、制限を受ける職業や資格は、実はもっと多岐に渡るのです。
ある職業や資格が、成年後見人制度の利用で制限を受けるかどうかは、それぞれの職業・資格を定義した法令などに記載されています。そのため、どの職業、資格が制限を受けるのか?はそれぞれの法令を確認するしか方法がありません。。。
と思っていたら、司法書士で構成される成年後見人団体リーガルサポートさんが一覧をまとめてくれていました!
4年以上前の資料ですので最新状況は変化している可能性がありますが、法令はそう頻繁に変わるものではないため、大きくは変わっていないでしょう。
ざっと見ると、士業や公務員、国家資格は軒並みNGのようです。
少し偏った見方をすると、「国や自治体が許可を与えるような職業・資格を制限することで何か問題があった場合の責任逃れをする」ということが目的のように見えてしまいますね。
正直この一覧を見てしまうと、成年後見制度の利用を踏みとどまってしまう人もいると思います。
170を超える権利制限が法的に定義されているということは事実なのですが、そもそも成年後見制度の利用によって資格や職業を制限することは妥当な考え方なのでしょうか?
後見人、保佐人の職務は、大きく以下の2点となります。
- 療養看護:本人の介護契約、施設入所契約、医療契約等についての代理権を行使する。
- 財産管理:本人(被後見人、被保佐人)の財産を管理や代理権を行使する。
上記の通り、後見人や保佐人は療養看護や財産に関する内容について代理を務めることができます。しかし裏を返せば、それ以外の内容について代理を務めることは全くできないのです。
つまり、後見人や保佐人をつけることは、本人の資格や職業に関する能力に関しては、代理ができるものではないということですね。
ただし、資格制限がある会社の役員や弁護士といった高度な判断能力が必要なものに関しては、その判断が必要な時に毎回後見人や保佐人に代理してもらうということは妥当ではないという趣旨もあります。
今回の事例の男性は警備員ということで、その職業に高度な判断能力が必要か、否かというところが訴訟のポイントになるのではないでしょうか。
以上のことを踏まえると、「後見人や保佐人がついたから」という理由で資格を制限をすることはある一定の職業ではやむを得ないでしょうが、現在の170を超えるような資格の制限は過剰な制限で、実は全く論理的ではない判断だと言えます。
資格や職業は、その資格や職業に特化した能力が必要になるものですので、本来はそれぞれの資格・特許に特化した判定を行い、その結果をもって資格制限の要否を判断すべきだと考えます。
とくに今回の事例では、警備会社の担当者は取材に対し「勤務態度も真面目で辞めてほしくなかった」と話した、と報じられているため、男性は警備員としての能力は十分に満たしていたはずです。
後見人制度の利用に伴う権利制限は、そもそもの見直しが必要な時期が来ていると言えるかと思います。
実は後見人制度の利用に伴う権利制限は、既に見直しが推進されています。
以下の記事にも記載されているように、「平成29年3月に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画」に基づいて、現在見直しが推進されているようです。
ぜひ170を超える権利制限が見直しされて、本来あるべき状態に少しでも近づいてほしいですね!
「早ければ2018年の通常国会でも成立」とのことですので、今回取り上げた提訴も含めて今後の動きを見守っていきたいと思います。